2007年02月10日(Sat) 17:55
ママの涙 -2
おでんで一杯の店のCママは結婚の経験がないとい。といっても本人から直接聞いたわけではない。しかし大体察しはつく。
Cママは一人身の気楽さみたいなところがある。馴染みを相手に晩酌をする。酔いが回ると腕をまくり、スカートをまくり出す。
そのCママが珍しく店を一週間程休んだ。姉の娘が急に亡くなったのである。その娘は夫と男の子一人残してまだ三十才過ぎの若さだという。Cママはそのことで店でもしばらくはぼんやりしていた。自分の娘のように面倒見てきたのである。娘も店の二階に一人住まいのCママの世話を焼きにきていた。老後の頼りにしていたらしいのだが後先になってしまった。それからCママは自分の身体に慎重になった。少しばかり血圧が高いといわれて酒を口にしなくなった。気楽にしてばかりもいられない心境のようである。
娘といえばどういう事情か、弟の子供を養女にして育てているママがいた。せっせと働いて娘の望みどおり、東京の短大を卒業させた。やがては婿を取ってと思っていた矢先、娘は店の客と駆け落ちした。何のために苦労して育ててきたのだとビールを呷ってママは泣いた。気落ちしたのかそれから店も左前となり畳んでしまった。料亭の仲居をして働いたがもう六十近い身体にはきつかった。十一時過ぎに一人住まいの間借りの四畳半にたどりつくと、ビールを飲み後はサロンパスでも貼って寝るしかなかった。大柄だが和服姿が身体をすらりと見せ、今なお彫りのある顔立ち、若い頃はさぞかし男がほっておかなかっただろうと思わせる。
Dのかあちゃん(ママよりかあちゃんの方が似合う)には男っ気が見られない。むしろそんな面倒くさいものとさばさばした調子である。庄内の魚と山菜で飲ませる和風バーである。老舗の料亭を二十年も勤めあげてから独立した。新鮮な旬の味を大事にして、鰹節は本物をちゃんと削って出した。
ところでかあちゃんは背はチンチクリンで御面相はオカチメンコ(決してそうではない)、と自分からそういってあっけらかんとしていた。しかし民謡を歌わせると、そのチンチクリンの身体のどこから出てくるのかと思う程の声量で表情にも魅力があった。素人ばなれしていた。わざわざ民謡を聞きにくる客もいた。
ところが男っ気のないかあちゃんに男っ気があったのである。
何時になくかあちゃんもメートルがあがって男と女の話からセックスの話までワイワイと下がっていった。そんな時かあちゃんは突然長距離電話をかけた。そして明日店を休んで、彼氏とデートするのだと半分呂律が回らない調子で宣言した。自称チンチクリンのオカチメンコのかあちゃんに彼氏がいると今まで誰も知らなかったのである。半信半疑というところだった。さてはセックスの話で我慢出来なくなったか、かあちゃんもやるもんだとからかった。
彼氏に会いに行ったのは本当のようである。青森まで行ってきたのだという。どうも察するに彼氏とはきっぱり別れてきたらしい。事情の程は判らないが、何がふんぎりになったのか、とにかく何故かあの晩に決めたらしい。
普段男っ気を感じさせないDのかあちゃんにも男と女のものがたりがあったのである。
さらに男と女のものがたりが・・・
