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2007年01月28日(Sun) 22:11

やきとり屋ものがたり(11)-2

 自分の作ったコート掛けに例の鼡色の背広を引っ掛け仕事にとりかかる。客が居ようがお構いなしである。終ると背広を着て落着いて一杯やる。やりながら「あ、この椅子ちょっとガタガタだ、直しておこう」と次の仕事を見つけておくといった具合である。材料や道具は自分で持ってくる。椅子を直してくれたときはかあちゃんは正直助かった。その時は一杯奢った。隣の屋台でも直してもらっていた。
 何も仕事が見つからないと、花を持ってきたりした。どこからか摘んできたものらしい。そういえばどこの神社かよく判らないお札を持って来て柱に貼りつけたこともあった。

 コウチョウのそういうお節介にかあちゃんはどうも馴染めなかった。
 別に恩着せがましくもなく、タダ酒にありつこうとするような品性の人にも見えない。何も魂胆が見えてこない。根っからの性分なのかも知れない。真ん丸満月のかあちゃんはあれこれ思いながらも何となく気が許せないのである。
「かあちゃんに気があるんじゃないか」とエンチョウなどはひやかしたが論外である。コウチョウはやきとり五本に、コップ酒二杯と決まっていた。たまに奢られた時以外は決してそれを崩さなかった。
 弁当箱に残してあるお菜(かず)を酒の肴に加えて飲む。八時迄には切り上げる。勘定は常にきっちり釣銭のないように払う。

 そのコウチョウが姿を見せなくなってから三か月経つ。
 シャチョウがさっぱり見えないと言いだしたのを切っ掛けに、居合わせた馴染みがコウチョウの話題に移る。普通ならば他人の詮索などあまりしないシャチョウ達だが、何とも変った人物だけに酒の肴になることがある。

 満月のかあちゃんはその話に加わらなかった。別の思いがあったのである。
 最初は正直のところ、こなくなってちょっとせいせいした気持があったが、さすがに二か月も経った頃から気になりだした。
 その頃である。地元の新聞に小さく「空き巣ねらい捕まる」の記事が出た。容疑者の名前がK町斉藤××(六十五才)。常習犯らしい。かあちゃんはこの新聞記事に引っ掛かった。コウチョウが何かの話でK町のことが話題に出た時、そこに住んでいるようなことをちらっといった。
 それから金槌である。あの椅子を直して以来、置いたままにして何かあると使っていた、その金槌の柄に○○トウと書いてあった。○○は薄れて判然としないがサイとよめなくもない。年齢もちょうどである。

 疑心暗鬼。かあちゃんのまさかの気持が、もうひとつのことを思い出させた。
 招き猫の貯金箱である。それが盗まれた。考えて見るとコウチョウがこなくなる直前だったような気がする。貯金箱には小銭だけ二千円位はたまっていた筈である。
 一旦そう思い込むと、あの頃のコウチョウの一挙一動が胡散臭く思えてくるのだった。かあちゃんは誰にもコウチョウへの疑心を漏らさなかった。シャチョウ達にも言うつもりはなかった。確証を得たいとも思わない。

 どうやらかあちゃん一人だけの思いで、その辺のことを口にする人はいない。
「かあちゃん、もしコウチョウが見えたら花見会に誘ってくれや」とシャチョウとエンチョウが帰り際に言った。馴染み客が音頭をとって、真ん丸満月のかあちゃんを中心に公園で花見をやるのである。
 かあちゃんは「ああ、見えたらナ」と返事をしながら、今は冷蔵庫の氷を割るのに、勝手に使っている○○トウの金槌に目をやった。
 近頃は何か或るなつかしたみたいなものを覚えるのである。