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2007年01月27日(Sat) 21:05

やきとり屋ものがたり(11)-1

「かあちゃん、そういえばコウチョウ、此の頃さっぱり見えないネ」とシャチョウが尋ねる。「もう三か月にもなる」と満月のように顔も身体も真ん丸い感じのかあちゃんが答える。

 此処でいうコウチョウは校長であり、シャチョウは社長であるがホンモノではない。ニックネームである。その他にこのやきとり屋にはエンチョウ(園長)とキョウジュ(教授)がいる。
 四人とも四十才以上の馴染みだが、このやきとり屋のなかではそれで通っているのである。
 これも誰がつけたわけでもなく何時の間にかそう呼ばれるようになったらしい。そういう雰囲気のやきとり屋といえる。

 ただそれぞれ由来らしきものはなくもないようである。シャチョウは新店(しんみせ)のスナックバーに行って同僚と二人、下着会社の社長と課長の触れ込みで飲み、結構バレずに下着の注文まで受けたと吹聴した。それから呼ばれ出したらしい。本人は公務員で社長どころかまだ課長にもとどかない。痩せっぽちで社長の貫禄などこれっぽちもない。そのくせ酒は滅法強い。エンチョウは商店の旦那だが、幼稚園の園長ではなく動物園の方だという。動物園が大好きだというところからついたという説と、何時かテレビに出ていたどこかの動物園の園長の顔と似てたからだという説がある。一人長のつかないキョウジュ、この人は大学の非常勤講師をしているので満更当っていないこともない。それも一番それらしいタイプである。最初学生から連れられてきてからやきとりが病み付きになったらしい。

 もう三か月も見えないというコウチョウだが、これは全然由来らしきものはない。二昔も前のような古い型の鼡色の背広を窮屈そうに来て、真白く清潔なワイシャツだがアイロンをかけてないのか襟はよれよれである。ノウネクタイだが、ボタンは首まで掛け、律儀に見える。四人のうちでは一番背が高い方で、そのフンイキはどこか辺地の小学校の校長に見えなくもない。六十才はすでに過ぎていると思われるので元校長というところだろうか。
 何をしている人なのか誰も知らない。口に出さなくとも何度か顔を合わせているうち見当がつくものであるが、コウチョウに限って判断がつかないのである。
 自分のことは殆どしゃべらない人である。しかし無口ではない。三面記事的なことはよく知っていて話題にでると口をはさんでくる。弁当箱を持っているところを見ると、働きに出ているらしい。毎日かは判らない。

 コウチョウは決まって火曜日にやってきた。それも六時から六時三十分の間である。二年前からなのだが、最初からそれは変らないのである。
 それよりも何よりもくるたびに、何かかにか仕事をして行くのである。頼まれもしないのに、いうなれば押しかけボランティアである。コート掛けを作ったり、トタンを貼って雨漏りを防いだり、ゴミ箱を掃除したり、よくこんな狭い屋台にやる事があるものだと思う程、こまごまと仕事を見つけた。
 こう毎度のことにさすがにかあちゃんは驚いた。余計なお節介だった。有難迷惑だった。断ってもコウチョウは意に介さない。

つづく
お節介なコウチョウの正体は……?