2007年01月25日(Thu) 21:03
やきとり屋ものがたり(9)
三日町の川端通りにまだ屋台が並んでいた頃、時折赤ん坊を背負って商売をしているかあちゃんがいた。三十少し過ぎに見え、一寸物静かなというか、どこか淋しげな感じでかあちゃんというより奥さん風なところがあった。子連れのうえ、そんな感じなので、一人だと話も途切れがちで多少気づまりな気分になることがあった。
亭主は遊び人らしく気が向いた時は、家で子守をするのだが大抵はかあちゃんの売り上げを取り上げては遊び回るらしかった。そしてよく自分のかあちゃんの屋台に仲間をつれてきては飲ませていた。何かそぐわない夫婦だった。
この子連れやきとりに、隣の「N」が店を出す時に色々教えてもらったのでそうである。モツの仕入れから焼き方、タレの作り方、商売の心得のようなものまで親切に教えてくれた。
「N」がやっと馴れ始めた頃、その子連れの屋台に灯がともらなくなった。赤ん坊でも悪いのか、家を訪ねてみようかと思っていた矢先に、そのかあちゃんがひょっこり「N」の屋台に顔を出した。
やきとり商売では食べて行けないからやめるという。
そしてクニに帰るという。広島の方らしい。どうも亭主を見限ってクニに戻るのではないかと「N」は見た。そして向うに戻ってもすぐに親子して食べていくあてなどないのではないかと察せられた。
よかったら使ってももらいたいとカメを置いていった。そのカメにはタレがまだたっぷり残っていた。いやわざわざ作ってきたのかも知れない。
それにしてもどんないきさつで広島から鶴岡までやってきたのか、又そんな思いで鶴岡を去っていったのか。もう二度と会うことはないだろうと「N」はそのカメを見やりながら話した。
