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2007年01月19日(Fri) 21:00

やきとり屋ものがたり(5)

 やきとり屋の屋台で出す酒は、以前は清酒(二級酒)と焼酎だけだった。ビールなど置いている店は滅多になかった。
 やきとりにはむしろチュウ(焼酎)の方が合う感じだった。懐が乏しいとよくチュウを飲んだ。二十五度の「宝」「爛漫」「金龍」などの銘柄があった。いわゆるチュウ独特の臭みあるやつである。
 よく一杯飲み屋でも見られる光景だが、かあちゃんが馴れた手つきで一升瓶からコップにトクトクと注いでくれる。必ず受皿にこぼれるまで注ぐ。客はそれを見定めると、コップの方に口を持っていってすっと一口飲んで、受皿にこぼれた分を戻す。そしてやきとりを食べながらゆっくりと飲み出すのである。チュウを飲みつけている客の殆どが変らない手順である。当時の焼酎は臭みがあるのでそれを嫌う人は、ウメワリと称する一種の梅液で一寸割って飲んだ。私はむしろその焼酎臭さが嫌いではなかったので割ったことはない。
 変ったのでは、立ったままやきとり用の塩を掌にふっておいて、チュウを一息で呷るとその掌の塩をすうっと舐める。それを二回。百円玉(百円銀貨は昭和三十二年十二月発行だからその後の光景と思う)を出して二十円の釣を懐に、さっと帰って行くオジサンがいた。最初呆気にとられたものである。それからチュウを燗して飲む人もいた。
 そういえば当時(昭和二十八年頃)やま酒を出す店があった。濁酒(どぶろく)のことである。いわゆる密造酒で朝日村などの山の方から下ろしてくるやつである。見つからないように水枕などに入れて売りにきたという。勿論チュウより安かった。濁酒を更に澄ました(蒸留)のもたまにあった。度数がウイスキーなみである。
 濁酒はどうしても長く置けない。すぐ酸っぱくなって売りものにならない。それにやきとり屋にも警察や税務署などの目がひかる。
 或やきとり屋のかあちゃんが隣のかあちゃんと売れ残りの濁酒を始末するべく、暖簾をしまってから二人で酒盛をした。つい調子にのって飲み呆け、気がついたらしらじらと夜が明けてきた。さすがへべれけになってどうした帰ったか覚えがない。屋台を放り出したままなので罰金まで取られた。その日の夜は二日酔で商売にならなかったという。
 今は濁酒は影も形もない。チュウも置かない店が多くなった。尤も又チュウが見なおされるようになって、むしろ普通の飲み屋に見られる。以前とは違う何かウイスキー気どりの上品な代物のようである。
 そういえばウイスキーの水割りなどを出すやきとり屋もでてきた。
 それよりも何よりも近頃は、やきとり屋で一杯という客がめっきり減った。